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プロ経営者のリアル ~経営って大変だけど面白い~

※こちらは2023年1月20日に視聴希望者限定で行われたイベントのアーカイブ記事です。

日本プロ経営者協会(JPCA)は、日本に数多くのプロ経営者を輩出するエコシステムを構築し、わが国を牽引するリーダーの輩出と事業承継問題の解決を目指し設立されました。

まだ日本にはプロ経営者が浸透しておらず、プロ経営者の働き方、プロ経営者になるためにどういったステップを進めばよいのか、求職ポジションにどれだけ出会えるのかという具体的な情報提供をしています。

また、具体的なプロ経営者案件として、事業承継の社長から直接オーダーいただいたものやファンドの投資先の社長としてプロ経営者のポジションをご紹介させていただいております。

当イベントでは、複数社で経営経験をされてきた前川様にお越しいただき、「経営って大変だけど面白い」というテーマでお話をお伺いしました。

目次

自己紹介

ただ今ご紹介にあずかりました、前川です。短い時間ですが、よろしくお願いいたします。

私から今日は『経営って大変だけど面白い!』というテーマでお話しさせていただきます。私、ビジネススクールの講師もしているのですが、講義の中でも「中間管理職と社長は全然違う、自分で意思決定して舵取りできる、これって本当に大変だけど、すごく面白くてやりがいのある仕事」、とお伝えさせていただいております。そういったことを少しでも皆さんに、私の体験含めてご共有できればと思っております。

自己紹介ですが、ちょっと色々やりすぎていて、わかりにくいかと思いますので、年表形式でどんなことやってきたのかということをお話しできればと思っております。

大学を出まして、最初は銀行、いわゆるメガバンクで、市場部門や経営部門の企画に携わっておりました。

その後は外資系コンサルティングファームで、メガバンクの経営企画に所属していたこともあり、主に金融機関の経営企画、特に中期経営計画の策定やM&A戦略、などのご支援をさせていただきました。

その後、起業などを経て経営に従事していきます。当時はリーマンショック後で、リスクマネーが循環しにくくなっており、ファンドが資金集めをするのが大変でした。そこで、ファンド、特にプライベートエクイティファンドのためにプロの投資家つまり機関投資家からお金を集められる会社、プレースメントエージェントの会社を立ち上げたのが、この時期(アセマネ・起業)です。この頃ぐらいからビジネススクールの講師もはじめさせていただきました。

私自身色々やりたいタイプでしたので、その後はアフリカに社会貢献的に投資するというファンドをコンサル時代の方と一緒に立ち上げたり、小野さんもいらっしゃったファンドから投資先に派遣されて、ECで中小型の販促品を扱う会社のバリューアップをやったりしました、また、そのときぐらいから、倉庫・物流業を営む友人の会社の顧問、現在は社外取締役、も始めました。

ECをやりながら、やっぱりテクノロジーって面白いな、って思っていたので、比較的身近なファイナンス領域ということでフィンテックの業界に入ったり、その後は今所属している、AI+SaaS系企業ということでPKSHA(パークシャ)の経営企画室長をやりながら買収した駐車場の会社のPMI及びDXをやったりしています。

簡単に申し上げますと、金融から最近はテック領域に、さらにはそこで経営にしっかり携わるという3本柱を結果的に自分のキャリアの軸に置いておりまして、プロ経営者と言われると、かなりお恥ずかしいところではあるのですが、経営ということに高い関心を持ってやってきております。

経営するにおいて意識していることは、やはり経験と勘だけだと行き当たりばったりになりがちだということです。世の中には、もう先達がある程度経験して答えを出してくれてることが沢山あり、私は、実務と座学の行ったり来たりを重要視しております。実務を通じて良かったなということをビジネススクールの講義でお話させていただくことで自分の経営理論を再整理できたりしまして、今日はそこら辺のお話もさせていただきたいと思っております。

今日メインでお話する2社の概要

今日は2つの会社の話が主に出てきますが、特にトレードでの体験談を中心にお話させていただこうと思います。というのももう1社のアイテックは、上場企業のグループ会社で、オンゴーイングですので、なかなかお話しにくい部分もあり、トレードのお話をさせていただきながら、アイテックでもこんなことやっていますよという形でお話させていただければと思います。

トレードは、立て看板など中小型の販促品の販売から制作、設置工事までを一貫して対応、特にECで看板を売ることを業界で先駆けて取り組んだ会社でした。当時は『看板』ってグーグルの検索に入れると、ウィキペディアの看板より上に出てくるぐらいSEO対策が凄くしっかりしていた会社でした。従業員数30名程度で売上高10億円程度、株主の変遷としましては、オーナーが事業承継の一環でファンドのACA(現GCJ)さんに売却、そこで私が社長になり、その後、福岡証券取引所に上場しているグリーンクロス(GC)という事業会社に売却されます。売却後も、GC社からPMIを手伝ってほしいと言われ9ヶ月ほど社長を務めさせていただきましたので、このファンド・事業会社双方のもとでの私の社長経験をお話できればと思っております。

また、もう一社のアイテックは、駐車場機器の製造開発・販売から管理までを手掛ける会社です。皆さんの中には、最近ロック板のないコインパーキングが増えてきたな、と思われる方も多いかとおもいます。そのロック板のない駐車場や、スマホ決済に先駆けて取り組んだのがアイテックです。オーナーの事業承継を受け、私が現在社長をさせていただき、PMIを通じたバリューアップやDXに努めております。

この会社はトレードと比べると従業員数、売上ともに約5倍の規模になります。同じ経営でも、ボートから小型船の操縦に変わったみたいなところがあり、やはり組織の大きさによって違いがあるところも併せてお話できればと思います。

資料は、2018年にM&Aセンター主催のセミナーで話した時の資料を修正したものになります。セミナーでは、オーナー社長の方々に向けて、ファンドが実際に入った後、こんな風に会社を経営していきますよという事例としてお話しさせていただきましたが、今日は経営経験はないけれども、経営に関心のある方を聴き手に想定してお話させていただこうと思っております。ご参加されている方には、すでに経営されている方とか、私より大先輩の方もいらっしゃるようなので、そういう方には、そういうこともあるよね、ぐらいに聞き流していただき、御容赦いただければと思います。

セミナー時に当時を思い出して作成した資料ですので、数字などが正確ではないところがあります。また、トレードに関しては事実等も2018年以前のものです。あと、あくまで私の経験からのコメントですので、皆さんの中には「うちってそんなことないな」とか「私そんなこと感じてない」とか思う方が結構でてくるのではないかと思いますが、先ほど同様、まあそういうケースもあるんだなという寛容な姿勢で聞いていただけると幸いかなと思ってます。

トレードの話を主にさせていただきますが、こういう会社でした。

私とトレードの関係

ネット販売がすごく伸びていて、私が社長になる前には半分以上を占めるまでになってました。一方、既存の伝統的な看板事業は停滞、全体で見ると横ばいという状況でした。

元々ファンドからは「前川さんには投資先を複数見て欲しい」と言われていて、どこか1社の社長をやるというよりは、複数社の役員をやりながら、経営を支援するという前提でした。

なので、ファンド下、オーナーから引き継いで社長になったのは新卒でトレードに入社して業務内容にすごく詳しい30代後半の人でした。ただ当たり前ですが、マネジメントは全部オーナーがやってきていたので、特に管理系を中心としたマネジメント経験は不足していたようです。オーナー企業にありがちですが、粗利より下の数字って見たことないというような感じです。

また、社員も、買収時のアイテックもそうでしたが、「オーナーに言われたことをやる」、ことに慣れすぎていて、何かを自分で考えるっていうのもなかなかできない、それが普段から求められてない、っていう方が結構多かった印象です。

私が入って2カ月くらい経ったころ、元オーナーの会長や新しい株主であるファンド、従業員に挟まれて悩んでいた彼から「社長を降りたい」という相談を受けました。元オーナーとファンドが話し合って、非常勤でいいから私に社長になってほしいとお願いされ、名古屋の会社に東京から週2、3日行く非常勤社長の日々がスタートします。

オーナー社長はスーパーマン

アイテックも中小企業のオーナーからの事業承継なので、この2社の中小企業の事業承継を通じて凄く思うことがあります。それは、オーナー社長ってスーパーマンなんだ、ということです。なぜかというと、自分で会社を立ち上げ、事業だけでなく管理周りもやってきて、会社の歴史含めて全部詳しいわけで、そういう人と社員の間の差って目茶苦茶大きいわけです。サラリーマン経営者化している大企業では、私も銀行にいたので改めて思うのですが、良くも悪くも順番に上がっていくので、ちゃんと自分の次を任せられる人が育っている感じがあります。つまり、この左側の会社の形。一方、オーナー企業は、右のように、オーナーが全てを知りすぎていて、事業、会社のことは誰も太刀打ちできない、文字通り雲の上の人という感じです。

それゆえに起こった?年商10億円(30人)の壁

その結果どうなるかというと、一般企業はピラミッド構造を作っていってるんですけども、オーナー企業って実質は鍋ぶた式(文鎮式とも)で、オーナーがいろいろ細かく指示しているんですよね。そのため中間層が育ちにくいところが凄くあるかなと。

これが会社が大きくなりにくい理由だとも思っています。オーナー社長のSpan of Control(スパンオブコントロール)の限界とでもいいましょうか。よく直接管理できる人数は5から7人程度って言われますけれども、やっぱり30人以上になってくると、なかなか一人一人目をかけられない、のではないかと。

アイテックの場合は、鍋ぶた構造がトレードに比べるとピラミッド構造に少し近い形もあり、100人を超える規模になることができたと思われます、が、私が入ったときはまだまだ、オーナー社長とその他社員、という印象が強かったです。

私が考える会社の成長と経営者のタイプ、リーダーシップの型

会社の成長を考える際に、経営者のタイプとして、信長型、秀吉型、家康型みたいなのをイメージすることがあります。創業時は、信長みたいな、ビジョナリーで天才肌の人がウワーっと事業を立ち上げ、まわりの人がそれについていく感じの0⇒1フェーズ。その後、秀吉みたいなコミュニケーション上手な人がでてきて、みんなで頑張ってやろうぜみたいに組織で引っ張っていく、1⇒10フェーズ。ビジョンを持ちつつもある程度マネジメント経験を積んだ家康みたいな人が更なる成長を牽引する、10⇒100フェーズ。会社の成長にあわせて、このバトンリレーまたは自分の中でマネージメントスタイルを変えていくってすごく大事だなと思っています。私自身は、起業経験もあるのですが、どちらかというと、この0⇒1よりも1⇒10、秀吉型に近いかなって思っています。

あとリーダーシップスタイルとして、項羽型、劉邦型というのも意識していたりします。結構、オーナー経営者って、何でも自分でできちゃうっていう意味で、項羽型の人が多いのではないでしょうか。

一方で会社を大きくするためには、弱みを見せながらここお願いって任せていく劉邦型のスタイルもすごく大事なのでは、と思ってます。私自身も若い頃どちらかというと項羽型のところがあったのですが、今は「これ分かんないから助けて」と、人に頼るというか、弱みを見せるというのを、自分のリーダーシップとして大事にしているところです。

少し話はそれますが、心理的安全性に関する書でも、重要なことに「無知の知」をあげており、「質問し、助言を求め、難題に対する最良の答えをみつけてきた」 [エイミー・C・エドモンドソン (著), 2021/2/3]と書かれています。

はじめての業界の経営がよくできますね、と聞かれることが度々あります。私は、看板も駐車場も詳しくないことが、この「無知の知」をうまく発揮できる強みになっていると思っています。

最後に、先ほど少し触れましたが、乗り物でも例えたいと思います。ボートだと、自分で全部やる、でいいんですが、船が大きくなってくるとやっぱり全部自分で操縦できない。戦艦になってきたら、本当にたくさんの自分の分身を作っていかないといけない。そういう意味でいうと、いかに人に動いてもらうか、うまく組織を作っていくか、が企業を大きくする過程ではすごく大事だなと思ってます。この「人に動いてもらう(=行動変容)」、っていうのは、今日の一つのメインメッセージだと思ってますし、私がすごく意識しているところです。

中間層を置いてピラミッドを強固に

トレードの社長に就任した際も中間層、つまりチーフやリーダーとかが少ない組織でした。例えば、業務課って人が多くいるのですが、まとめている人がなく、社長が直接指示を出していました。また、ネット事業部のところも2つのチームが混在している状況でした。特に、デザインチームっていうのが大事で、デザインを付けると粗利も高くなるんですよね。モノを仕入れて売っているだけだと、粗利が2割ぐらいなんですが、そこに付加価値を付けると、3割から4割になる。このデザインチームを大きくするのが成長性・収益性の観点でも大事なのですが、当時はごちゃとなっていて。例えば、ネット事業部の予算が未達だよね、って言ってもピンとこない感じ。自分達のチームはちゃんとやっているからあっちのチームのせいじゃないんですか、と。また、私は看板のこともデザインのことも全くわからない。組織的にしっかり私の右腕・左腕となる人を作っていかなければ、と強く感じていました。

そこで実際やったのが、①業務課を事務課に改名、チーフを置く、②デザインチームを独立させてリーダーを置く、でした。これまで、責任ある立場につきたくない、というお二人に、私は、「来たばかりの社長で本当に困ってて、このポジションはすごく大事だから、○○さんにチーフ/リーダーになって、僕を助けて欲しいって」ってお願いしました。そしたら「いいですよ」って二人とも快諾してくれたんですよね。よくある上司からの「やりたい?」「やりたいならやっていいけど」みたいな感じだと「じゃあやりたくないです」みたいになったのではないかなと思います。改めて、自分を助けてほしいってことを明確に言う、弱みを見せるリーダーシップってすごい大事だなと思いました。その後、すごく活躍していただきました。特に、デザインチームの成長スピードは30%を超えるぐらいまでに達しました。

就任当時、私から見ると無駄な会議が結構多くあるように感じてました。一通り会議全部出てみたのですが、この会議いらないんじゃないとか、これ任せた方がいいんじゃないとか。そこで、これまで社長が全部入って細かく指示してたのを、「僕はこれとこれだけ出ますよ」とか、「これ大事だからミーティングとかではなく、もっと早くチャットとかで教えて」とか変えていきました。

これにより、少しずつ「鍋ぶた組織」が「ピラミッド組織」へ、同時に中間層が育っていき始めました。

オーナー経営者から事業を引き継ぐ際に難しかった点

結構気をつけないといけないのが、なかなか本音で話してくれないっていうこと。最初の頃「大丈夫ですか」って聞いても、ほとんどが「大丈夫です」っていう答え。本当かなって思うことが多くて。半月か1ヶ月くらい経って仲良くなった人にちょっと聞いてみると「以前は何か言ったらよく怒られたから本当に言っていいのかどうか不安だった」って言われました。やっぱり信頼を得るまではなかなか胸襟を開いてくれない、ここは難しかったなと思いました。

あと、新しいやり方に対しての抵抗ですね。今の会社でも大事にしてるのは過去を否定しないってことですね。アイテックで言えば「皆さんの今までのやり方は決して間違っていなかったけれども、上場企業のグループ会社になったので色々変えないといけないことがあります。お手数かけますが、ご協力お願いします。」っていう言い方。従業員からすると、株主に代わって欲しくて代わってもらった訳じゃないのにっていう被害者意識が少なくともあるので、そこのところは寄り添うことがすごく大事だなって思いますね。

後は何が起こったのかが従業員が理解できてないってことも結構あります。お昼食べに行った時に「会社が売却されたって聞いたんですけど、どうやって会社って売却されるんですか」って聞かれ、「オーナーが株を売ったんですよ」って説明すると「株を売ったら会社って売られたことになるんですか!」って驚かれたりしましたね。また、「オーナーに見放されたってことですか」っていう発言も。「会社やばいんじゃないか。だからオーナーが売ったんじゃないの」って思っている人も結構いて。この無用な不安というのは早めに火を消したほうがいいので、きちんとコミュニケーションをとって安心させることは重要だなと思います。

社長になるにあたって意識したこと、やったこと

きちんとコミュニケーションをとるためにも信頼を得ることが大事ですし、信頼を得るためにも、クイックヒットを打ち続けることが重要だと感じています。クイックヒットとしてどんなことやったかというと、2ヶ月に一回あった土曜日出勤をなくしたり、有給休暇を取りやすくしたりしました。「本当に休んでいいんですか」「やってもらえるんですか」ってことで、皆すごくびっくりしましたね。いろんな理念を掲げるよりも、まずは従業員一人一人にとってプラスのことをやった方が早いんですよね。給料を上げるとか休みが増えるとか。「この社長は自分に良いことをやってくれる人だ」、「この社長なら会社がよくなりそう、何か変わりそう」、と感じてもらい、変化を自分事化してもらうことがすごく大事ですね。

従業員の皆さんは、こちらが考えている以上に色々思っているんですよね。仕事のこと以外で従業員が悩んでいるのって凄くもったいないと思ってたので、社長に就任した時にメールを送りました。「本質志向なので、私にお世辞言ったり、何か色々やったりしても何の意味もないですよ」、「前がこうだからとか、以前からこうしてるとか、全然こだわってないので、何の為なのか、どうするとより良くなるのか、できない理由よりできる方法を、そういう視点を重視してますよ」、また、「4月から早速全体会議もなくして、どんどん見直しますよ」、っていう内容のメールを。

フェア・フリー・フラットも、メールでは強調しました。「私のことは“さん”付けで呼んでください」と書いたことで、「こういうのを送ってくれてすごく助かりました」っていうコメントをもらいました。やっぱりどう接していいか分からなかったっていうところに、こっちから近寄ってあげるってすごく大事だったなって思いましたね。

繰り返しになりますが、クイックヒットを打ち続けることが大事だと思ってて、新しいことをとりあえずどんどんやっていきました。例えば、30人くらいしかいなかったので、一人15分の面談を設けて、困っていること、不安なことを全部聞きました。そうすると、それすぐできるね、みたいなことが結構ありました。1、2年目の女性社員が朝従業員の皆にお茶を入れるのが嫌だという話を聞いたので、みんな自分で入れればいいよねってお茶汲みなくしたり、有線放送が午後から流れるんですが、朝から聞きたいって声には、みんなにヒアリングして、これ朝から流れたら問題なのか、何で朝から流れてないのか聞いたところ、誰も理由が分からなかったので、なら朝から流そう、と決めたり。あと朝の掃除に関して「コードレスだったらすごい楽なのに」って言ってたんで、その場でアマゾンで注文したら無茶苦茶喜ばれたりもしましたね。細かいところまで話を聞けば、結構クイックヒットって打てるもんなんですよね。こういうことを続けていくと『言ったら変えてくれる人』っていうイメージが形成されていく。三つ子の魂百までじゃないですけども、一度そう思ってもらえるとどんどんその後もいろいろと話してくるようになりますね。

他にも、先ほどお話しましたように、会議の見直しも積極的に行いました。NICE TO HAVE、つまり「やった方がいい」をやり出したらキリがないので、やらなければならない、MUSTだけやろう、とメリハリを付けました。

また、会議の目的に照らした時に、その頻度とそのメンバーが適しているのかとか、なくしても売り上げにつながるような仕組みもあわせて導入していくっていうことをちゃんと考えて見直ました。何を本当に議論した方がいいのかとか、何のためにやってるのかみたいなのを徹底して考えて見直すことで会議の効率はかなり上がったと思います。

後はPDCAですね。PDCAがどれだけ現場で早く回るかってすごく重要視してます。

なので今のアイテックなんかでも、KPIの見える化を徹底してやってます。今はTeamsとか便利なものがあるので、KPIのチャンネルを作って、そこに担当者から定期的に上げてもらって、自分で見にいくってことをやっています。それによって事業の健康状態がよくわかります。

次に組織ですが、育成、フォロー体制もイメージすることを意識しました。2年後3年後を見据えたら今ここにこの人入れて、この人はこっちに動かして、この人が今度はリーダーになってという風に。この動的、ダイナミックな人の異動というのを頭の中に入れておかないと人の育成って間に合わなくなります。新卒社員を採用していたので、新人を育成し、玉突きでローテーションしながら、複数業務をこなせる人材を増やし筋肉質な組織を作るという感じです。複数業務を経験した人が増えるほど、協力できるようになるので、チームワークもよくなりましたね。

次に、残業に関してです。よくある話ですが、上司が残っていて帰りにくいみたいな話が、先ほどの15分面談で出てきました。これまで残業は自由にできたのですが、承認制に変えました。もし残業をしなければいけないのであれば、周りの人がみんなで助けてあげよう、または次の日でいい仕事だったら、次の日でいいよ、っていうことで、残業しにくいカルチャーにしました。実際、3か月で4分の1になったほど、圧倒的に残業が減ると言うか、みんなが早く帰れることにつながりましたね。

管理会計で好きな言葉に『人は測定されると行動を変える』 [伊丹敬之 (著), 2016/3/16]というのがあります。アイテックでも、「日曜日の残業を前川さんがすごく気にしてるよ」って言われたら日曜日に誰も来なくなるんですよね。やはり社長がメッセージとして伝えるってすごい大事だなと思いました。

ちなみに、一番大事なことは、って聞かれれば、信頼を得るために、新人から取締役まで、最初の3ヶ月はよく個別に飲みに行ったってことですね。アイテックでも、本社だけでなく、大阪、名古屋、福岡の支店にも会いにいって必ず懇親会してました。

その他中小企業の経営の改善ポイント

その他に実際にどんな事を細かくやっていたのかという話を少しさせていただきます。業界経験がないので、経験と勘に頼れない、そのため、より合理的な経営、HOWやプロセスがどうか、というのをすごく意識しました。

まず、顧客の声に耳を傾けました。なぜかというと「前川さん看板のことわかってるんですか」ってみんな思ってるわけですね。アイテックでもそうです。「前川さん駐車場のこと知ってるんですか」みたいな。そういう状況で、素人の私が何を言っても説得力がない。だから、何をやったかというと、お客さんに会いに行く。お客さんと沢山会ってると、僕の方がお客さんから直接聞いてるから「お客さんはこう言っていたよ」って、もとから居た社員よりよく知ってるようになっていきます。

彼らは業務に詳しい、なら僕が彼らにできないことに注力しよう、それはお客のことを知ることだって思ったわけですね。ちなみに、お客さんに会いに行こう、といった時の最初の反応は、「ネット販売なのにお客さんに会いに行くってどういうことですか」でした。看板なので、基本的にBtoBなんですよね。大手100社のリスト出してもらって、上から順番に見たら東京がほとんどで、そのうち30社くらいに全部電話しました。ちょうど年末年始に近かったこともあり、御挨拶に上がりたいと言ったら会えるタイミングでもありました。

会いに言って、サイトとか見せながらいろいろ話を聞くと、本当にいろんなフィードバックが返ってきました。面白いくらいにフィードバックが返ってくるんですよね。例えば、実はこのサイトの中身にあまり印象がないという話が沢山でまして。「このボタンの並びどうですか」って聞くと、「いつも同じボタン押してただけなんだよね」とか「よく見たらいろいろあるんですね」とか「急いでいるので必要なところしか見てなかったです」とか言われました。

あと、この左側にある「デザイン致します」や「取付工事」なんかもトレードの“売り”だったのですが、「こんな小さかったら見ないよ」とか「え、デザインできるの?どこに書いてあるの?」、「あ、本当だ、オリジナル制作って書いてある」とか、すごい言われるわけです。

また、052で始まる電話番号って抵抗ありませんか、って聞きました。お客様から言われたのは「ネットって基本的に安いイメージだし、安いためには東京じゃなく地方の番号の方がいい」って言われました。

更に、「例えばどんなサイトがいいサイトですか」って聞いたら「このサイトがいいサイトだよ」って教えてもらって、そのサイトを参考にすることもしました。

お客さんに聞くと、いろんなこと全部教えてくれるんです。

目から鱗だったエピソードを一つ共有します。顧客に会いに行く前に社員に、うちの強みって何って聞いたら、「激安だからうち売れてるだけなんですよね」って口を揃えて言うんです。でも、お客さんに実際に聞いたら違ったんですよね。どういう時に顧客がうちのサイトにアクセスしてるのかというと、いつも使っている業者さんに納期が間に合わないって言われて急いでいるからネットで調べてる、急いでいる時だから、実は価格はあまり気にしない。早く返事が欲しいのに、ネットだと多くがメールの問い合わせ、一方、うちはすぐ電話をかけて聞けるんです。さっきお話しした、右上の電話番号があるから。実はこれがすごい強みだと。だから、この話を聞いたあと、すぐ電話くださいくらいに電話番号をより目立たせるようにしたんです。次に、急いでるからすぐ見積もりも聞きたい、ってことで、見積もりの返事も早く返すというようにしました。今まで48時間ルールだったのを、10万円以上の注文は全部12時間以内に返すように変えました。

あらためてですが、このお客さんと話すって圧倒的に大事なことで、長く働いている従業員でもやはり知らないことが多いんですよね。

課題もよくわかりました。同じ商品をリピートしてくれているのですが、クロスセルは進んでいなかったことがわかりました。

大学院の講義でもよく言うのですが、“自社の強みや課題はお客に聞く”、が一番です。

(その他にも話しましたが、割愛させていただきます)

グリーンクロスの子会社に

短期間ではありましたが、業績、特に利益が改善しました。そんな中、事業会社であるグリーンクロス(GC)にファンドから売却されました。GCの方に言われたのは「オーナーが抜けて会社がちゃんと回るか不安な中で、こういうプロ経営者がしっかり会社を回して、会社も業績が良くなってるってことは、安心して買収できる」ということでした。私自身、その後も、GCから請われてしばらく社長を継続します

事業会社の傘下だからこそできる事を実行!

ファンドの傘下時は、特にACAさんは短期投資なので、私も2、3年で成果が出ることに基本注力しました。一方で事業会社の傘下だと、長期の成長戦略も描きやすいんです。社員から言われたのが「前川さん、株主変わったら言うこと変わりましたね」って。当たり前なんですよね。だって社長は株主から経営を委託されていて、株主の意向に配慮してやるのがプロ経営者だと思っています。

(その他にも話しましたが、割愛させていただきます)

どんな実績だったかというと、就任前売り上げはほぼ横ばいでしたが、就任後は10%弱の成長、ネットの伸び率はさらに改善しました。また、粗利の伸びは売り上げの伸びを上回っていました。営業利益は前年比で50%を超える増加でした。無駄の削減、効率化の効果がうまく出たと思います。オーナーは事業が好きで、あまり管理はそんなにぎちぎちやられない方が多いので、プロ経営者が入って型化して色々改善できる余地が結構あるなと思ってます。

本日お伝えしたかったこと

繰り返しになりますが、本日お伝えしたかったことをあらためて。

経営を引き継いで心がけたことは、「この社長は自分に良いことをやってくれる人だ」、「この社長なら会社がよくなりそう、何か変わりそう」と感じてもらい、変化を自分事化してもらうことです。みんなに支えてもらわないと会社はよくならないのでこれを実感してもらうことは非常に大事だと思っています。特に来たばかりは信頼残高はゼロどころか、マイナス。そのためにも、クイックヒットを打つ、をすごく意識しましたし、アメとムチで言うならば、これはよく講義でも言ってますけども、アメ・アメ・アメ・アメ・ムチ、アメ・アメ・アメ・ムチぐらい、アメを最初にいっぱい出して、そこにちょこっとムチが入るような感じ。そうしないと、なかなかみんなついてこないし、自分事化されないんですよね。どんなにいい理念やビジョンがあっても、自分たちの日々の業務や生活がどうより良くなるのか、がまず一番の関心事だと思ってます。なので会社の方針に沿う人にはこれまでにない賞与を出すなど、メリハリのある処遇もしました。

あと、「扉あけとくからみんないつでも来てね」ってやったって絶対来ないんですよね。自分が逆のことをされてもなかなか行かないじゃないですか。なので、社長自ら「ご飯行こうよ」とか言って近づいていってコミュケーションをとるようにしました。

現場の人たちは自分より業務について詳しいので、経営者こそ顧客の声を味方にすべきですね。アイテックなんかでも運営会社の社長とかと会うたびに「うちってどうですか」「うちの強みは、課題はなんですか」って聞きます。その声を武器に社内変革を押し進めていく。あと駐車場利用者にアンケートを取るのもやりました。スマホで精算してる人たちにアプリ経由でアンケートを取ることができるので。駐車場の利用者がどんな不満を持ってるのかなど顧客の声が聞けることは、業界経験の少ない私にとってはすごく参考になります。みんなの話に引っ張られ過ぎないという意味でも。

組織を大きくする為にも、良くするためにも、従業員、個々の力を良い方向に開放することは非常に大事です。普段の仕事を見返してもらうと、顧客や事業に向かわず、社内のことに使ってる時間がすごく多いということはありませんか。この時間が全部お客さんや事業に向いたら絶対に会社って良くなるはず、と思っています。なので、先ほどお伝えした通り、就任時の挨拶メールで「私にお世辞言ったり、何か色々やったりしても何の意味もないですよ」と伝えました。

強い会社ってより現場に近いところで、より迅速にPDCAが回っていると思います。あと、一番嫌なことって何もしないことなんですよね。とりあえず思いつくことは費用対効果があえばやってみる。要はそんなにコストがかからないリスクが大きくないことはとりあえず全部やろうよ、そのうちの何かが当たるよ、っていう感じ。何か仕掛けといたらこれ当たったみたいな。意識してクエスチョンマークをいっぱいやっておく。ただしやりっ放しは良くないので、そこもPDCA重視で。

こちらも就任時の挨拶メールの通りですが、「前がこうだからとか、以前からこうしてるとか、全然こだわってないので、何の為なのか、どうするとより良くなるのか、できない理由よりできる方法を」とできない理由は潰しますね。前例踏襲型は嫌いなので。

あとはやっぱり社長が自ら進んでやる、ってことを意識しています。

そういうことをやってたおかげか、トレードの時に短期間で株主が変わった際も、僕が社長で残ってたので、社員からは「前川さんがいるなら安心です」って言ってもらえました。そのあと抜けるときは大変でしたが。

最後にやはり「経営」って大変だけど面白い!、です。つらつらと思ったことを。

あらためて経営って大変だけど面白いっていう文脈でお話ししたいなと思ってることは、リーダーシップってやっぱり経営の十分条件ではないんですが、必要条件だな、と。リーダーシップだけでは会社は良くならないんですが、良いリーダーシップがなければ会社は絶対良くならないと思います。料理人の腕前によって、同じ食材を使っていても出来上がる料理の味が全く違うのと一緒だと思っています。だからこそ、やりがいがあると思っていまして。

経営者が日々発する言葉がカルチャーを作ると思っています。僕はアイテックでも「未来の駐車場を形にする」、「精算機を誰よりも早くなくしたい」、「お客さんに駐車場に入ったというのを感じさせないような駐車体験を生んでいきたい」ってことをことあるごとに言ってます。

就任当初、精算機をなくしたいっていうのを言った時、みんなから「前川さん、うち精算機を売っているんですよ」って冷ややかに言われたんですよね。でも、それぐらいインパクトのあることを言わないとみんな変わっていかない。おかげさまで3年ぐらいたって、「精算機を無くすなら、まずは我々がなくします」という風に言ってくれる人が増えてくるようになってきたので、やっぱり変わってきたなって感じます。

トップが意識してやるべきことはワクワクとか非連続を作ること、未来を語ること、だと思っています。駐車場はこう変わるよとか、駐車場もこういうことになっていくよとか。ビジョンとかパーパスを語るのはすごく大事ですね。本当に世の中はすごい勢いで変わっているので、クエスチョンマークを常に探索する。いろんなことに挑戦することが大事。「前川さんまたいろいろなことを言い出してるよ」って言われるんですけど、これがやっぱりみんなの目線を上げるって意味で組織のトップの役割かなと思っています。

あとはもちろん組織の力を引き出すこと。ボートから船へ、そして戦艦になっていく、つまり組織が大きくなるほど人に動いてもらうことが大事になります。そのためには組織のピラミッド構造を適切に構築する。キーはミドルマネジャーだと思っています。

この意識改革をする際に外部の研修会社に入ってもらいました。その人に「前川さん、ミドルマネージャーの方たちにどんな風に変わって欲しいですか」って聞かれたときに、「社長が言ってるから、っていう言葉を使わないミドルマネジャーになって欲しい」ってお願いしました。「しょうがないんだよ、社長が言ってるから」っていうのが一番嫌いな言葉で。僕そんな無理強いしたことないから、だからみんなが個々にちゃんと、何でこれをやるのか考える会社になって欲しい、と。おかげさまで今はかなりそういう発言は減ったようですが、いまだにすごく意識しています。

人に動いてもらうためには、やっぱり人事。特に評価、報酬ですね。なんかお金の話ってちょっとってあるかもしれないですが、ここにちゃんと向き合うってすごく大事だと思っています。頑張って成果を出した分報われるという透明性の高い人事制度。行動変容装置としてのKPI。トップがこれを見ている、これを見ているからこそ、この行動を変えてね、これ頑張ってねってことだと思います。また経営管理もデジタルツールでかなり変わってくるだろうな、と。

経営もある種スキルで、私も数社やらしていただいていて、ある程度のパターン認識、突発事態への慣れみたいなのが、出来てきていると感じます。皆さんも早くからいろいろと経験されるといいのかなと思っております。

ということではい丁度55分ぐらいですかね。堀江さんこんな感じでよろしいんでしょうか。

堀江

はい。ありがとうございました。いや、時間を忘れて聞いてしまいました。ありがとうございます。

前川氏:60分って聞いていたんで最初の5分を外して収めました。

堀江

完璧でございます。めちゃくちゃ面白かったです。ありがとうございます。皆さんかなり参考になったんじゃないかなと思います。こんな形でですね、2ヶ月に一度プロ経営者ご経験者をお招きしてお話を聞いています。
前川さん、本日はありがとうございました。

前川氏:今日はこちらこそ貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。

小野

ありがとうございます。

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